トナカイ飼育から持続可能性を考える

フィンランドセンター:フィンランド オウル (2022年開設)

センターより、直の、今の情報を発信して参ります。

 

授業の一環でトナカイ牧場に行ってきました。

 

『持続可能性の人類学』(“Anthropology of Sustainability”) という表題が付けられたこの授業は、持続可能性とは何か、どうしたら気象変動などの問題を克服し環境や暮らしを守っていけるのか、様々な事例を元に、経済・環境・社会・文化の四観点から考察していくことを目的としています。

 

その事例の一つして取り扱ったのが、フィンランドにおけるトナカイ飼育です。

 

フィンランドでは9世紀には既に開始されていたとされるトナカイ飼育ですが、現在国内には約4500人のトナカイ飼育者がおり、その中でも約1000人がトナカイ飼育を生業としています。

 

今回訪問させて頂いた牧場主もそのうちの一人で、300年以上トナカイ牧場を家族で経営しているそうです。

 

トナカイは春から秋にかけては森で放牧され、草木が枯れ食料が枯渇する冬になると牧場に戻ってくる、ないしは牧場主に連れ戻され、次の春が来るまで飼料を食べて牧場で生活します。

 

このように大部分を森と共に行うトナカイ飼育ですが、近年資本主義の台頭によりその様相が変化してきているそうです。

 

利潤の追求により、牧場主一人あたりのトナカイ飼育数が増加した結果、過放牧が発生しトナカイの餌となる地衣類の牧草地が減少してしまったことが報告されています。

 

また、多くのトナカイの放牧を可能にするために導入された作業の機械化(例として冬の囲い込みの際スノーモビルを使用するなど)や、牧草地の減少により飼料量を増加せざるを得なくなったことで、生産者の経済的負担が更に重くなり、特に資本の少ないものは経営困難に陥るケースもあるようです。

 

実際今回訪れた牧場でも、現金収入獲得のため、観光客のためのカフェが併設されるなど、商業化されている箇所がちらほら確認できました。

 

従来自然と共存してきたはずのトナカイ飼育ですが、新しい経済システムに迎合した結果、自然との軋轢を生み、さらには生産者間の経済格差の拡大を助長するような側面を抱えるようになったことは、無視できないことだと思います。

 

かといって、環境・社会に悪影響を与えている懸念があるから、トナカイ飼育を今すぐやめろということでは、現在まで培われてきたトナカイ文化を損なう可能性もあり、そもそも牧場主の経済的援助はどうするのかなど、極端な話では解決出来ない複雑な問題であるといえます。

 

経済・環境・社会・文化の四つのアプローチから持続可能性を達成するためにはどうすれば良いのか。

 

トナカイ飼育は、その解決策の探求の難しさを提示してくれる一つのケースだと考えます。

M.E.

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